日常でも耳にする「トラウマ」という言葉ですが、どのような症状なのかご存知ですか?実は誰しもが、このトラウマを経験する可能性があります。
例えば、数ヶ月経っても頭から離れず思い出してしまうつらい出来事はありませんか? その度に何度もねむれなくなってしまったりするならさらに要注意です。
この記事では、そのトラウマについて理解し対策について学ぶことができます。
目次
①トラウマとは過去の深い傷のこと
私たちは、恐ろしい体験や強いショックを感じると、体と同じように心も傷つくことがあります。ほとんどの場合、時間が経つことで回復しますが、極度に強いストレスであれば心に残り続けてしまいます。
この、心から消えない傷のことを「トラウマ」といいます。トラウマには必ず心の傷となった原因の出来事があります。
一般的に、自然災害、事故、暴力や犯罪被害など命の危険に遭った人がなりやすいと考えられています。
その他にも、家族に人権を侵害しているような言葉を言われたり、部活の指導中にあざになるほど叩かれたり、上司にきつく罵られたことがある人も十分にトラウマになっている可能性があります。
あなたの過去もしくは現在も経験しているつらい出来事が心に大きな穴を開けてしまっているんです。
さらに日常生活や社会生活に大きく支障が出てしまう場合には「PTSD」(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)と呼ばれる症状になることもあります。
トラウマ体験から時間が経っても落ち着かず、よりいっそう辛くなる場合や、数ヶ月から数年間経ってから、PTSD症状がはっきりする場合もあります。
参考:みんなのためのメンタルヘルス 厚生労働省 PTSD
②トラウマの具体的な症状
具体的にトラウマがあるとどのような症状が起こるのでしょうか。トラウマ体験の前と後では心身に変化が現れます。心と体それぞれの症状を詳しく読み進めてみましょう。
2-1 :トラウマの心の症状
トラウマ体験によるつらい気持ちから離れようとして、脳はさまざまな働きをします。あまりに強いショックを受けているため、記憶がちぐはぐになってしまうことがあります。
例えば、
覚えていない部分があったり、感情と記憶が混ざり合ってしまったり、出来事の順番がわからなくなったりと記憶が曖昧になるのです。
ばらばらの記憶が点在しているため、ふとしたことで突然トラウマ体験がよみがえり、フラッシュバックや悪夢をみてしまいます。
体験の直後だけではなく何度も継続的に起こるのが特徴です。
・フラッシュバック
トラウマの原因となった現象が急によみがえり、苦しくなってしまうことです。忘れたと思っていても、突然トラウマ体験の記憶や感情が思い出されてしまいます。
思い出すだけではなく、再び体験しているように感じてしまい、周囲の状況を認識できなくなることがあります。
・回避行動
原因となった出来事や人物を極度に避けることで、記憶の呼び起こしを回避することがあります。
意識していなくてもきっかけを避けるため、行動を制限しすぎてしまい今までの生活が難しくなる人もいます。生活の中には予想以上に思い出すきっかけが潜んでいるからです。
例えば、津波で家を失うような大きな災害に遭ったとして、海に近づけなくなってしまったり、災害の日に使った通勤路を通れなくなってしまうこともあります。大雨の日は津波のニュースが流れることを恐れてテレビを見ないこともあるでしょう。
決して大袈裟ではなく、本当にささいなきっかけすらも、記憶に繋がるためにさけてしますのです。
うつの症状に似ていますが、「トラウマ体験の後から感情が動かなくなってしまう」という点がポイントになります。親しい人とのおしゃべりにひどく気疲れしてしまう場合は要注意です。
2-2 :トラウマの身体的な症状
心の不調からめまいや頭痛、眠れなくなるといった症状が出てくることがあります。例えば、何度も繰り返し同じ悪夢を見てしまい、眠りたくなくなるほど苦しくなる人もいるのではないでしょうか。
いつもと同じ時間にベッドに入っているのに寝付けなかったりしていませんか?あるいは、つらい出来事が頭から離れず考え込んでしまって、気がつくと朝だったり。
その寝不足はストレスからくる不調かもしれません。
・神経過敏
常に神経が張り詰めてしまい、いらいらしたり小さなことでも驚きやすくなるほど過敏な状態が続くこともあります。何かに集中できなくなったり、逆に集中しすぎてリラックスできなくなる場合があります。
・感覚麻痺
恐ろしい記憶による苦しさを忘れるために、感情や感覚が麻痺してしまうことがあります。他人を必要以上に疑ってしまったり、仲の良かった人へも愛情を感じられなくなってしまいます。以前は楽しかったこともわからなくなり、満足感や幸福感も失ってしまうのです。
③トラウマの原因
日常のいろいろな出来事がトラウマの原因として考えられます。また、直接自分が経験しなくても、誰かが受けた恐ろしい出来事を見るだけでトラウマになることがあります。
大きな災害で傷ついた人を見たり、家族や友人など親しい人が苦しめられている場面をみてしまうことも十分トラウマの原因となり得るのです。
最近では東日本大震災のように大きな災害で、被災者やその映像を見ていた人もトラウマになってしまうことがあります。いまは新型コロナで多くの人が傷ついて苦しんでいますよね。
あなたもニュースを見ているだけで、気がつかないうちにトラウマになってしまっているかもしれません。
例えば、次のような生活の出来事がトラウマを引き起こす可能性があります。
3-1: トラウマの原因①生死を伴う非日常の体験
・DV
・戦争
・虐待
・自然災害
・犯罪被害
・性的暴行
・交通事故
・大切な人の死 など
3-2 :トラウマの原因②強いストレスを感じる日常の体験
・失恋
・いじめ
・パワハラ
・モラハラ
・リストラ
・大きな失敗
・試験の不合格 など
ただし、恐ろしい出来事を体験したすべての人が、トラウマを抱えてしまうというわけではありません。同じ経験の被害者同士であってもなる人とならない人がいます。
もちろん心が弱い人だけがトラウマになってしまう、ということは決してありません。トラウマ体験が本人にとって、どれほど恐怖や危険を感じさせたかという度合いによるからです。
傾向としては、スポーツマンタイプの人や、危機の中で人を救出する職業の人はアドレナリンの分泌が大きいため、トラウマになりやすいといわれています。
トラウマ経験になりうる、幼少期の虐待を乗り越えたなど逆境体験が複数ある人もトラウマを抱えやすいでしょう。
ここまでの記事を読むと、「壮絶な経験でなければトラウマにならないのかな?」と感じているかもしれませんね。しかし、容姿についてひどくからかわれたり、一途に信じていた人に浮気されたりすることでもトラウマになりえます。
またトラウマ体験の原因になった相手に悪気がなかったとしても、あなたが心底つらい気持ちになってしまうかどうかが重要なのです。
次の章ではトラウマかどうかの判断材料となる目安をみていきましょう。
④トラウマなのか判断できない時の対処方法
心の中から消えない出来事があっても、それが自分のトラウマになっているかどうか悩んでしまうこともあると思います。また、その出来事といま悩んでいる症状を結びつけられない場合があります。
理由がわからないまま、心身が傷ついているのはつらく苦しいものですよね。いきなり病院にいくのはためらってしまう場合にも、自分がどんな症状に苦しんでいるかを見つめ直してみるといいかもしれません。
まずはトラウマの原因となった出来事からいま現在を比べて、次の症状が当てはまるのかを確認してみましょう。
□ 恐怖感や無力感がある
□ 感覚や感情が麻痺している
□ 感情のコントロールができない
□ 緊張が続きリラックスできない
□ 悪夢を見たり眠れないことがある
□ ストレス体験に関連する物事を極端に避ける
□ ストレス体験を突然思い出すことが何度もある
上記の状態が1ヶ月ほど継続しているなら、トラウマやPTSDになっている可能性が高いといえます。いまもひどく苦しい状態が続いているのではないでしょうか。
とはいえ、これらの項目に当てはまらない場合でも、苦しさが続くなら迷わず専門家にお話ししてみてください。
⑤トラウマを放置することのリスク
トラウマを抱えたまま我慢し続けると、心が回復できません。その結果、さらに体も心も傷ついてしまうことがあります。トラウマをそのまま放ってしまうことの危険性をみていきましょう。
5-1 :トラウマを理由に自分を傷つける行為をしてしまう
トラウマを我慢し続けるストレスから逃れるために、自傷行為をしてしまうことがあります。リストカットや薬の過剰摂取といった行為です。
最初から自分を痛めつけるつもりはなくても、その行為によって気持ちが落ち着いていくため、なかなかやめられない人が多いのです。
すべての人が自傷行為をしてしまうわけではありません。しかし、幼少期に虐待を受けていたり、強い孤独感や周囲に理解してくれる人がいない時には、自分を傷つけてしまうことがあります。
5-2: トラウマが原因で劣等感を抱えてしまう
トラウマの原因に対して、自分が悪かったのではないかと考えてしまう方も少なくありません。他人からのアドバイスでも、自分自身を不必要に責めてしまう場合があります。
被害を繰り返してほしくないあまり「あなたがそこにいたから被害に遭ったんじゃないの?」と他人に言われてしまうこともあるかもしれません。しかし、被害に遭う原因も責任もはあなたには一切ありません。
ただ、ストレスがある状態ではこういった言葉によってより深く傷ついてしまうことがありますよね。周りに受け入れてもらえないせいで、他人に相談できず悩みを一人で抱えてしまいます。
また、冷静でいられないほど緊張状態が高まっている時には、「世界には自分の居場所がない、自分には一つも良いところがない」と極端に考えてしまうこともとても危険です。
5-3: トラウマが精神疾患を誘発してしまう
強いストレスを抱えたままなので、他の精神障害につながるがことあります。また、眠れないことから不眠症になってしまう可能性もあります。
・うつ
・摂食障害
・不安障害
・解離性障害
・脅迫性障害
・パニック障害 など
⑥トラウマを改善できる機関
トラウマのケアに有効なのは、カウンセリングや医療機関です。今までの生活ができなくなり困っているときに訪れるべき場所です。できるだけ続けやすい環境の機関を選ぶことが症状の緩和に繋がります。
また、トラウマが生活に結びついたものであれば、継続的に心身が傷つけられている状態です。家庭内暴力や虐待、パワーハラスメントなどの場合はただちに専門機関へ相談してください。
犯罪被害に遭っている場合は、警察に相談窓口がありますので、警察または行政の相談窓口を訪れてください。
あなたの苦しさを解放し、寄り添ってくれる安全な機関を選びましょう。
6-1:カウンセリング
会話を重ねて気持ちを穏やかにしたい人に向いている機関です。「誰かに気持ちを聞いてもらう」くらいの心持ちで尋ねても全く問題ありません。
自分の気持ちを、時間をかけてお話しすることで、心の整理をして問題をカウンセラーと一緒に考えることができます。
話す内容に戸惑う方は、どんなトラウマ体験をしたのか、いまどんなことに困っているのか生活を振り返りながらメモをとってから利用するといいでしょう。
6-2 :精神科や心療内科
精神科や心療内科では症状を診断し、医師による薬での治療を提案してもらえることがあります。病院によってはトラウマを再現したり、状況を理解して克服する方法を行なっている所もあります。
いますぐに症状を緩和したい睡眠不足や気分の不安定感を抑えたい方は、精神科や心療内科を利用するのがおすすめです。
精神科や心療内科の中には、カウンセリングに力を入れているところもあるので、事前に確認してから相談してみてくださいね。
⑦トラウマはしっかりとしたケアをすれば改善します
今回はトラウマについての症状や対策についてお伝えしましたが、人によって物事の捉え方が違います。「もっと苦しい経験をしていなければ、自分はつらく感じてはいけないのかな」と思う必要はありません。
一番大切なことは、どんなトラウマ体験に遭っていても、あなたが悪いことは何一つないということです。絶対に自分を責めないであげてください。
自分が少しでも辛い、苦しいと思った時は迷わず専門家に相談してみてくださいね。あなたを支えたい、助けたいと思う人が必ずいますので、そのことを忘れないでください。続いて、トラウマの改善方法について書きました。今辛い気持ちを抱えている方は、トラウマをカウンセリングで克服するための具体的なステップをご覧ください。
公認心理師:吉田澄央
ライフファクトリー東京代表。公認心理師でもあり催眠療法士として活躍。「改善するカウンセリング」の実現のために、今まで1万回を超える精神科診療に同席。現役の心理師でありながら日平均来院数1000人以上の精神科医院にて、患者相談部門の事務長を任される経歴を持つ精神科医療分野のプロフェッショナル。
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