今、このページを開いたあなたは、きっと、自分を見る他人の視線が気になる、あるいは自分の視線が相手を傷つけているようで不安になる、そんな悩みを抱えていることでしょう。もしかしたら、日常生活にも支障が出ていているのかもしれません。
そうした、あなたにとっては深刻な悩みでも、周りに相談すると「気にしすぎ」の一言で片づけられてしまい、理解してもらえない、だんだんまるで自分が悪いような気さえしてくる。
だから、誰かに相談するのもためらうようになる。もし、今あなたがそんな状況だとしたら、それは本当に辛いですし不安ですよね。
でも、その不安や辛さに「視線恐怖症」という「名前」がつくとしたら、そしてそれが克服できるものだとしたらどうですか?まずはこの記事では、その視線恐怖症について分かりやすく説明していきます。
目次
①視線恐怖症とは他者の目線が怖いこと
視線恐怖症(しせんきょうふしょう)とは、言葉通り、自分に向けられた他人の視線、あるいは他人へ向けた自分の視線が、病的に気になってしまう症状のことです。
普段、私たちは視線というものをあまり意識することなく生活していますが、世の中には、人からの視線が怖くてたまらず、苦しんでいる人たちがいます。
たとえば、信号待ちをしている時に、停まっている車のドライバーから見られているような気がして怖さを感じる。
あるいは、それを確認しようとドライバーを見る自分の視線が、相手に不快感を与えないか気になる、視線恐怖症の人たちは、そういった不安や怖さに日常的に苦しめられています。
しかし、こうした視線に関する不安や、症状を指す「視線恐怖症」という言葉は、今のところ、まだ、正式な診断名としては認められていません。
では、世界的な精神疾患の基準の中では、「視線恐怖症」とはどのような位置づけにあるのでしょうか。
アメリカの精神疾患の診断基準で、“DSM-5”と呼ばれるものがあります。これは世界的にも広く用いられている基準です。
その基準によると、視線恐怖症は「社交(社会)不安障害(Social Anxiety Disorder)」の症状の1つとされています。また、日本では古くから“対人恐怖”の1つとして、研究が進められてきました。
参考:厚生労働省 社交不安症の認知行動療法マニュアル
②視線恐怖症の症状
視線恐怖症の症状は、「心」「体」「それ以外の特定の状況」といったように、症状が現れる状況によって分けることができます。それぞれどういったものがあるか、説明していきます。
2-1:視線恐怖症の心の状況
・人の視線に対してすぐに不安になる
・自分の視線が相手に不快感を与えているように思えてならない
・実際に見られていなくても人に見られているのではないかと思いう
2-2:視線恐怖症の体の症状
・人の顔を正面から見ることができない(正視恐怖症)
・人の顔を見ることが出来ず代わりに、周囲のものをチラチラ見て、脇見をしてしまう(脇見恐怖症)
上記以外にも、視線恐怖症は不安障害の1つと述べたように、特定の状況において、様々な症状が確認されています。
2-3:そのほかの視線恐怖症の症状・状況
・電話が怖い
・人と話すと顔が赤くなる
・人前でスピーチをするのが怖い
・人前で文字を書くと手が震えてしまう(書痙)
・自分が食べているところを人に見られたくない(会食恐怖症)
視線恐怖症の人は、日常生活の中でこうした状況に悩み、人と接することに恐怖感を抱いています。しかし、そもそもどうして人の視線を怖く感じてしまうのでしょうか。
③視線恐怖症の原因は主に3つある
視線恐怖症の原因は、まだはっきり分かっていません。ただ、根底には次の3つが影響していると考えられています。
・幼少期の環境
・過去のトラウマ
・元々の繊細な体質
視線恐怖症の人の中には、上記全てに当てはまる人もいれば、どれか1つだけの場合もあります。
3-1:幼少期の環境が視線恐怖症の原因
幼少期に、親の顔色を伺って過ごしたり、人に気を使い過ぎると、視線恐怖症になってしまうことがあります。
たとえば子供は、「いつもいい子にしなさい」や、「人に迷惑をかけてはいけない」など、細かく注意をされ過ぎると、自然と人の目を気にするようになります。
また、「〇〇ちゃんに負けないようにしなさい」や、「〇〇ちゃんよりテストの点が悪い」といった人との比較をされ続けたとします。そうすると、人からどう思われているかを、極端に気にしてしまうようになります。
3-2:過去のトラウマが視線恐怖症の原因
過去に受けた大きな心の傷は、トラウマとなって深く心に残ることがあります。たとえば、過去に、自分の外見でいじめを受けたことがある場合、それが原因で視線恐怖症になることがあります。
また、幼い頃の子供同士ではよくある、見た目をからかわれるような経験でも、人によっては視線恐怖症になってしまうことがあります。
同じ言葉でも、人によって受け取り方は様々で、傷つきやすさも異なるからです。では、どのような性格の人が視線恐怖症になりやすいのでしょうか。
3-3:繊細さが視線恐怖症の原因
視線恐怖症の原因として、その人の持つ繊細さや優しすぎる性格というものがあります。
近年、周囲の状況や、人に対して敏感で、動揺しやすい「繊細」な人が、「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」と名付けられ、話題になっています。
これは、脳が外部からの刺激に対して敏感で、身体的刺激だけではなく、対人関係や感情的なことについても、その意味を深く考え過ぎてしまう特性とされています。
その為こうした人は、相手の些細な感情や行動に気がつき、深い共感性や優しさを備えています。しかし、その反面、常に人の言動に過剰に反応してしまっている状態とも言えます。
④視線恐怖症の4つの種類
視線恐怖症には「自分自身の視線」「他者の視線」「対峙した時の視線」「視界に入る視線」といった、気になる対象別に4つの種類があります。ここでは、それぞれの症状と対処法について述べていきます。
4-1:自己視線恐怖症
自己視線恐怖症とは、自分の視線が他者に不快感など、何かしらの悪影響を与えているのではないかと感じてしまう症状のことです。
このように感じてしまう気持ちを変えていく手段として、自分に対し、自分自身で適切な指示や言い聞かせをしていく、「自己教示訓練」が有効であるとされています。
そうした自身への指示や言い聞かせの例として、次のようなものがあります。
視線恐怖症を克服するポイント1
自分が相手を見ることは、他の人がその人を見るのと同じ行為であり、誰にでもあること。自分が相手を見たとしても、相手の人は当たり前だと受け取るということ。
視線恐怖症を克服するポイント2
自分の視線が、他の人と比べて特別変わっていたり、異常性があるわけではありません。他の人がそうであるように、自分の視線によって、周りに自分の感情が読み取られてしまっているようなことは起きないと思う。
視線恐怖症を克服するポイント3
相手を批判したり、悪口を言ったりなど、直接何かをしない限り、相手の感情や尊厳を傷つけることはないので大丈夫。視線だけで、不快感を与えるようなことは基本的にないということ。
視線恐怖症を克服するポイント4
周りの人は、自分が思うほど、あなたに注目などしていない。自分の視線なども覚えていないし、覚えていたとしても、すぐに忘れてしまう。
こうした自分への言い聞かせを続けることで、自分の視線は相手に何の影響も与えていません。そもそも、相手はそれほど自分のことなど気にしていないのだと思えるようになっていきます。
4-2:他者視線恐怖症
他者視線恐怖症とは、相手が自分を見る視線に対して、怖さを感じる症状のことです。
この症状に対しての対処法としては、誰かに見られていると感じたら、実際に見られているのかどうか、周囲を確認してみるとよいでしょう。
そうすると、ほとんどの場合は見られていないので安心をしてください。もしくは、見られていたとしても否定的な感情によるものではないといえます。
私たちは無意識のうちにわざわざ嫌いなものや人を見るようなことはせず、むしろ、好きなものや人を見る傾向にあるからです。
しかし、実際に誰にも見られていないことを確認しても、それでも誰かに見られているように感じてしまうこともありますよね。
こうした場合は、自分に対して、自分自身を否定的な気持ちを抱いているケースが多いです。
例えば劣等感が強いと、相手がさりげなく発言をした言葉に対して自分は見下されいるのかもしれない!と思うようになります。
視線恐怖症もそれと同じで、自分自身が自分のことを大切に思っていないと他者から批判的な目で見られているのではないか…と不安になってしまうこともあります。
さすがにそれは自分自身も辛いですし、逆に相手のことを傷つけてしまうかもしれませんよね。そうならないようにするためにも、自分の内側に向いている意識を一度外へ向けてあげませんか。
例えば、見られているように感じるのであれば、逆に相手を見る側に回ったり、自己批判をせず、自分で自分の良いところを見つけ、肯定してあげます。
それでも人の視線が恐怖に感じる時はどのようにしたら良いのでしょうか?考え方のヒントを下に書いてみました。
視線恐怖症を克服するポイント1
自分が思うほど、相手は自分のことを見ていないし、気にもしていないということ。人ごみの中にいる面識のない多くの人は、特に自分のことを見ていないということ。だから、そうした人の視線を気にする必要はないこと
視線恐怖症を克服するポイント2
多くの人はみんな自分自身のことで頭がいっぱい。あなたが他の人から見られている!と思うのと同じように、みんな自分自身のことを考えています。
もしも目があったとしても、たまたまあっただけの場合もあります。もしくはあなたの後ろにカラスでもいたかもしれませんよ。
視線恐怖症を克服するポイント3
たとえ他者が自分を見ることがあっても他の人は他者自身のことを考えながら見ていることが多いです。例えば、「今日の夕食は何にしようかな〜」と思っていたかもしれません。
このように、自分のことは気にしておらず、すぐに忘れる程度の注意しか向けていないということをぜひ知っておいてください。あなた自身も今日出会った人の服装を全て覚えていますか?
4-3:正視恐怖症
正視恐怖症とは、正面からの相手の視線に恐怖を感じたり逆に、自分が正面から相手を見ることで、相手に不快感を与えているのではないかと感じてしまうことです。
もしくは、自分の心のうちを相手が読んでいるのではないかと心配になってしまうことです。こうした、正視における他者視線恐怖については、次のような考え方が有効です。
視線恐怖症を克服するポイント1
他者と目が合っても、他者に自分の考えや性格が見透かされることはないし、視線だけで、自分の考えが他者に伝わってしまうこともないということ。
相手がよほどのエスパーでない限り基本的には自分の気持ちを見透かすことができる人は世の中にほとんどいません。
視線恐怖症を克服するポイント2
実は人は自分のことしか考えていない場合がほとんどです。周りにどんな人がいるのかを気にするのは合コンぐらいで本格的に相手を観察する人はごくわずかなんですよ。
視線恐怖症を克服するポイント3
お仕事をしていると打ち合わせやズームを利用して相手の顔を見ることもありますよね。あなたが相手の顔を見ていたとしても相手は不快な気持ちにはならないので安心してください。
相手の目を見て言葉を伝えることで、相手にも自分の気持ちを伝えることができるようになるんですよ。むしろ他の方向を見ていたら「本当に聞いてるの?」と相手を不安にさせてしまうかもしれません。
視線恐怖症を克服するポイント4
日本人の場合はじーっと凝視をされることに恐怖を覚える人もいるのは事実です。日本の奥ゆかしい文化が関係しているのでしょうか?
実際のところはわかりません。だからと言ってアイコンタクトをしないのも自分の気持ちが相手の無意識(自覚的ない意識)に伝わりずらくなるとも言われています。
相手に自分の言葉を届けよう、そして相手の思いがあなたに伝わっていることを伝えるためにも、目を合わせることは大切です。
4-4:脇見恐怖症
脇見恐怖症とは、視界に他人が入ることに恐怖心を抱き、視界に入った人全員が、自分を見ていると勘違いしてしまうなどの症状が一般的です。また、視界に人が入ることは異常なことだと思い込んでしまうこともあります。
視線恐怖症を克服するポイント1
視界に他人が入ることは普通のことであります。相手は自分のことを気にしていないというように、マインドチェンジをしていくことが大切です。例えば、すれ違いざまに視線があったとしてもそれは偶然の可能性もあります。
もしかすると、後ろの人やショーウインドウを見ていたのかもしれません。このように考え方を少しだけ変えてみることも視線恐怖症を克服するために大切です。
視線恐怖症を克服するポイント2
信頼できる人と一緒に出かけることも大切です。出かけた先で誰かと目がった際に、一緒にいる人に自分のことを見ていたのかどうか?などを聞いてみるのもひとつの方法です。そうすると、相手が自分をみていたのか否かがわかり、人は自分のことを見ていないという気づきも生まれてきます。
視線恐怖症を克服するポイント3
視界に人が入ることは悪ではありません。例えば、相手があなたの服装や、雰囲気が素敵だと思ったかもしれません。
せっかく好意を抱いて見ていたのに自分のことを嫌いなんだ、自分が醜いからそう思われたんだ!と勘違いをしてしまうのが自分に対しても相手に対しても少し可哀想ですよね。
少しだけ相手の目線に立って考えてみると、視線恐怖症を緩和できるきっかけを掴むことができるかもしれません。
⑤視線恐怖症は物事の見方を変えることが重要
ここまで、視線恐怖症について、その種類や原因、症状、それを改善する考え方のコツなどをお伝えしてきました。
気にすることはないと言われてもなかなかそう思えないからこそ、長年にわたり悩んでいらっしゃる方も多いかと思います。
一気に今の自分のあり様や気持ちを変えることは難しいと思います。でも、ご自身の出来る範囲で少しずつ、考え方や気持ちを変えていくとが大切です。
そうすると、今より楽になります。そして少しでも楽になったら、そんな自分をほめてあげて下さい。視線で誰かを傷つけることも、あなた自身が傷つくこともありません。この世界は素敵なもので溢れています。
あなたの中にあるはずの、見たいもの、見たい人を素直に自由に見ようとする気持ちを、どうか大切にして下さい。
そして次回は、頑張るなあなたの為に具体的な視線恐怖症の克服の仕方について説明していきます。視線恐怖症の治し方を読むと、人が怖い気持ちや人の視線が怖い気持ちを緩和できるヒントを見つけることができます。
公認心理師:吉田澄央
ライフファクトリー東京代表。公認心理師でもあり催眠療法士として活躍。「改善するカウンセリング」の実現のために、今まで1万回を超える精神科診療に同席。現役の心理師でありながら日平均来院数1000人以上の精神科医院にて、患者相談部門の事務長を任される経歴を持つ精神科医療分野のプロフェッショナル。
吉田心理師の監修:「不安障害」記事一覧
吉田心理師の監修:「統合失調症」記事一覧
吉田心理師の監修:「アダルトチルドレン」一覧
吉田心理師の監修:「うつ病」記事一覧